気象庁が発表する津波注意報・警報での津波の高さは、海岸での津波の高さである。津波は海岸に到達後、陸上を遡上し広い範囲に被害を与える。このことから、津波による浸水区域を想定することは、津波防災対策を実施する上で、最も重要なことである。既に旧国土庁作成の浸水予測図が自治体へ配布されているが、陸上地形の近似の仕方や、防潮堤等海岸構造物の効果が計算の際適切に反映されていない等、いくつかの問題が指摘されている。このため、本マニュアルで用いる津波浸水予測図については、次のように考える。
津波情報の中では、津波予報区内で予想される津波の最大の高さは8階級に分けられている。しかし、津波避難を考える場合、迅速な行動が求められることから、予想される津波の高さの階級に応じた浸水予測区域は、むしろ避難の際に困惑する要因となる恐れがある。従って、「津波」の警報及び「大津波」の警報における津波の高さを特定し、その高さに対応した浸水区域を設定する。
量的津波予報における「津波」の津波警報の高さの表現は、「高いところで2m程度の津波」となっている。量的に表現されるのは、1m、2mの二つあるが、計算格子のなかで警報基準を超える値が1個でもあると「高いところで2m程度の津波」と表現して「津波」の津波警報を出すことになる。ここは、安全サイドにたち「津波」の津波警報の想定する津波の高さを2mとする。
八重山諸島に影響を及ぼす琉球諸島を含む南西諸島領域(八重山諸島を中心として約600km)で、過去100年(1900年~2002年)に、「大津波」の津波警報基準の深さ60kmより浅い地震でマグニチュード7.5以上の地震は、3回おこっている(図1)。これらの地震を含み過去200年間に周期性の地震のおこる場所は確認されていない。従って、八重山地方に「大津波」の津波警報をおこす恐れのある地震を安全サイドに立ち既往の最大のマグニチュード7.7を想定するマグニチュード7.7の地震がおこす津波の高さを量的津波予報で計算すると約6m程度になる。
量的津波予報で発表される津波の高さは、20kmから30kmの平均的な海岸線を対象としたものであり、実際の津波は細かい地形の影響で増幅され、局地的に予想される津波の高さよりも高くなることがある。しかし、予報値と観測値を比較した結果、予報値の2倍以上の高さの津波が観測される割合は1%未満である。従って、局地的な津波の増幅は最大で予報値の2倍とする。また、局地的に増幅される場所については、岬や湾の地形、海底地形等を考慮して決める。
津波の遡上高は、海岸での津波の高さと陸上での摩擦力に影響される。陸上での摩擦力とはすなわち、沿岸の建物や防波堤、護岸、防潮林等による摩擦力である。これらの情報については、旧国土庁作成の津波浸水予測図にもある程度考慮されていることから、建物等による遡上高への影響は津波浸水予測図を参考にする。
津波の遡上高と検潮儀によって観測された潮位は、調査した場所と潮位観測点が近くても異なる場合が多いが、調査によると津波の遡上高と検潮記録の最大全振幅の比は、0.5~2.0であって平均値は、ほぼ1.0で合ったことが報告されている(梶浦、1983)。これは、気象庁が用いている「津波の高さ」に換算すると、遡上高は検潮記録による津波の高さの1.0~4.0倍であって、平均して2.0倍の高さになる。更に、近地津波と遠地津波を区別しまとめたものを図2に示すが、検潮記録の全振幅の値が0~2mの範囲では、遡上高が0.5~2.0倍の間にばらついている。また、2m以上の津波全振幅の領域では、約1.0~2.0倍になっている。これを「津波の高さ」に言い換えると、検潮記録の津波の高さが0~1mの範囲では遡上高は、その1~4倍であって平均的には2倍となり、1m以上では2~4倍程度の高さになる。
津波の高さ2mの浸水域を考えると、遡上高はその2倍から4倍となり、最大で8mの標高まで浸水の可能性があり、8mの標高を指定することになる。しかし、先に記述したように、津波予報での高いところで2mの津波とは、予報区にある計算格子に1個しか警報基準をこえる値があっても警報を出す。本マニュアルにおける効率的な避難を考えると、4倍の津波の高さを考えるより2mの2倍の4mを考え方が妥当である。また、地形の効果により、局地的に津波の大きくなる場所については、4倍の8mと考えれば、「津波」の津波警報による浸水域はほぼ網羅できる。さらに、安全上、石垣島の平均朔望満潮位の1mを加える。
6mの津波を検潮儀によって実測し、その遡上高がどれくらいになるかを検証した事例はない。従って、この規模の津波を想定する場合には、シミュレーションの結果を利用する。気象庁は量的津波予報システムを稼動して、過去の津波の事例に対して、数値シミュレーションを行った。数値モデルが算出した予想の高さと現地調査による遡上高との偏差は、およそ図3に示すようなポアッソン分布となった。実際の遡上高は、図3の中のポアッソン分布関数の頂点に対応する津波の高さの1/2倍から2倍の範囲内に、68%以上の割合で収まっている。このことは、気象庁の発表する「大津波」の津波警報において、想定する遡上高の2倍を指定すれば、7割の割合で遡上高の範囲内に収まることを意味する。また、断層モデルが比較的正確に求められた場合は、この値は90%に達する。更に、現在の知見において局所的に津波が高くなる場所を個別に指定して3倍の遡上高を設定しておけば、ほぼ全ての場所の遡上高を網羅できると考える。従って、「大津波」の津波警報で想定した津波の遡上高は6mの2倍の12mに平均朔望満潮位の1mを加えて13mを想定する。また、地形の効果により局地的に津波の大きくなる場所については、3倍の18mを想定する。
以上のことをまとめると、浸水予測図を作成するための津波の高さと遡上高は次表のとおり考える。また、局地的な津波の増幅は、最大で2倍とし地形等を考慮して決める。
津波の高さ | 遡上高 | |
---|---|---|
「津波」の警報 | 2m | 5m |
「大津波」の警報 | 6m | 13m |
避難場所は、「大津波」の津波警報が出た場合に避難することを想定して指定する。「津波」の津波警報の場合は、標高が5m以上の場所に待避あるいは鉄筋コンクリート建物の2階以上に避難する。ただし、港湾に面した建物は、船舶等の流出による破壊力を受けるため、港湾から2列目、3列目の建物に避難する。避難経路は、なるべく海岸線に直行した避難経路を選択する。
詳しくは、石垣島地方気象台ホームページの津波防災マニュアルもご参照下さい。
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